遅刻回避

【登場人物】

小浦チヨミ:主人公。落ち着きがないあわてんぼう。

 私は小浦チヨミ! 185cm148kg!!
「遅刻遅刻ー!」
 私は今、50mを5.2秒で走破する自慢の足で通学路を軽快に飛ばしています。昨日は夜遅くまでラグビー中継を見てしまいつい寝坊してしまいました。もし今日も遅刻をしてしまえば三日連続遅刻と汚点を残すことになります。担任教員は「遅刻しそうでも慌てず、落ち着いて学校にきてね。君のその大柄な体は凶器にそのものだから」と仰りますが、遅刻はとても恥ずかしいものです。ですから私は一心不乱に全力疾走しているのでした。
 私と同じ学校の制服を着た、いつも見る始業時間ぎりぎりに合わせて登校する勢がどこにも見当たりません。体を冷や汗が流れます。これは遅刻の気配が濃厚に沸き立ってきました。
 しかも、前を見れば次の交差点の信号が赤に変わろうとしていました。まずいです。信号待ちとなれば遅刻は確実でしょう。私は最高速度を出して赤になる前に駆け抜けようと試みました。
 しかしそのとき、それより手前の路地の死角となっていたところから急に女性が現れ私の進路を塞ぎました。あぶない! と思う間もなく…、
 どっかーん!
 相手の体が吹き飛びました。こちらは身構え衝撃に備えることができたのですが、相手は不意をつかれた形になり左半身をコンクリートの路面に強烈に打ちつけました。身を震わせながら、ガハッ、グフッと咳きこんでいます。一目でわかるヤバイ状態です。
「どうしよう…」
 私は電話で救急車を呼び病院まで付き添いました。医者の話によると命に別状はないようです。後で聞きましたが全治3ヶ月の重傷のようです。
 その後、警察、弁護士、検事、裁判官、看守、囚人、食堂のおばさん、心理士の方々ともお話をし…、前橋刑務所での1ヶ月の服役を終え改めて学校に向かいました。
「おっす小浦ちん、おひさ!」
「おはよ、おひさー!」
 教室に入り友達と言葉を交わします。どうやら遅刻せずにすんだようです。
「しばらく見なかったけど、何してたの?」
「服役」
「え…?」
「刑務所で暮らしてた」
「どういうこと…?」
 なにやら友達が頭を抱えていますが、私には見せたいものがありました。
「ほら見てよ、することないからこんなにたくましくなっちゃったよ」
 私はワイシャツの袖をまくり右腕を見せつけました。
 服役中、暇に飽かし筋トレをしていた私の肉体は圧倒的成長を果たしたのです。その成果を見せようと腕をに力を込めると…、
 バリバリ、バリバリ、バリバリバリ!
 と、隆起する筋肉にワイシャツが破れてしまいました。これは予想していなかったことで肌をさらしてしまうことになりました。それを近くの男子たちが目を丸くして見ていました。思わず顔が赤くなってしまい叫びました。
「きゃーー!! 男子の、えっちーー!!」
 恥辱にやりきれぬ思いを男子たちにぶつけようと腕を伸ばすと、男子たちは一目散に逃げ出しました。
「まてまてー♪」
 そうして私たちはホームルームが始まる前のほんのひととき時間、教室内を走り回り鬼ごっこを楽しんだのでした。まる。